隠れ家的な

ここ数年、私の研究室は郊外に移動したこともあって急激に学生を集められなくなってしまった。学生がいないというのは、研究室にとっては大問題である。
ボスは研究室に配属される前の学部生を見つけるたび「うち人気無くて困ってんのよ。あんた来てよ。ねぇ。」と話しかける。
見るに見かねた私は知り合いの3年生に聞いてみた。うちって何で人気無いの。ねえ。ねえ。ねえ。と。
「人気無い、人気無いって言われてるレストランに誰も行かないのと同じですよ。」としゅっとした顔の3年生がしゅっと答える。
言われてみればその通りである。レストランはまずくても1時間もすれば開放されるが、研究室は最低半年は開放されないのである。「おい、長兵衛、どんだけひでェもんかァちょいと試しに行ッてみようじゃねえか、えエ?」なんてことにはとてもならないのである。


そうか。「人気が無い」、なんて言ってはいけないのだなぁ。
とは言え、人気あるよ、と言っても現に人がいないのだからこんな偽装はすぐばれてしまい、ヒソヒソ声による指示を受けながら謝罪会見をせねばならない。
いや、君には見えないだけだよ、人はちゃんといますよ、迷わずこの研究室に来なさいって微笑みながら言ってますよ、なんて言うとオーラのなんとか的な感じで、これはいささかやり過ぎの感がある。


そこで私が思いついた言葉は、隠れ家的な研究室、である。
なんかいいでしょ。知る人ぞ知るみたいな感じが出て。しめしめ。
だから私はここ数ヶ月、人気が無いとは言っていない。そのおかげかどうかは知らないが、4月から卒論生を1人確保した。しかも大学院まで来てくれそうである。



いやはや、しかし冗談抜きで後ろ向きなことを言い過ぎないのは重要かもしれない。前向きな言葉というのはそれなりに効用があるようです。
そうか。私もモテない、モテないとは言わないようにすればよいのだ。いいことに気がついた。





ぼ、ぼくは隠れ家的な男なんだな。






さぁ、どうですか?






あ、誰ですか、今気持ち悪いって思った人。。。