人を動かすテクノロジ

コンピュータによる説得という非常に新しいテーマを扱った本。久しぶりにドキドキした。


本書では、コンピュータテクノロジによって人の態度や行動を変えるための原理が紹介される。その1つである「自己監視の原理」は、小さいながらも着実な進歩をユーザに見せることによって、ユーザが自ら設定した目標を達成しやすくなるという原理だ。例としては、消費カロリーが一目で分かる縄跳び、腕時計型の心拍計、といったテクノロジが、ユーザのエクササイズに対する態度や行動を変えるという。


一方で「トンネリングの原理」を利用したものとして、ソフトウェアのインストールがある。ソフトウェアのインストール中は、ダイアログが1つ1つの手順を導いてくれるため、ユーザはトンネルの中に入る。こうしたトンネル内は説得のチャンスであり、メールマガジンの配信手続きや新製品の宣伝を紛れ込ませるといったことが可能だ。本当は必要の無い会社名、本名、住所といった情報を得ることもできるかもしれない。


ここで2番目の例を紹介したのは、著者も課題として述べていることであるが、コンピュータテクノロジによる説得には倫理的懸念がつきまとうからだ。コンピュータは辛抱強く、24時間、365日人間を説得するチャンスをうかがえる。そういう意味で人間よりも非常に強力な説得ツールであり、それが悪用されることも十分考えられる。設計者の意図しない使われ方により問題が起こることもあるだろう。


確かに期待も不安も両方あるが、コンピュータテクノロジがどのように人間の活動に介入していけばよいのか、そのヒントがちょっと見えたような気にさせてくれる本です。人に合わせるばかりがデザインではないという著者からの強烈なメッセージだと勝手に解釈してます。

実験心理学が教える人を動かすテクノロジ

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