書評未満その2
世の中では制御工学はあまり馴染みの薄い学問である。「制御工学の考え方」は、そんな制御工学の地位向上を目論んだ入門書。おもしろい。
制御工学の考え方には、普遍性があるという。確かに制御工学的な視点で、世の中の物事を見るというのは結構楽しい。
制御の基本は、制御対象に、ある操作量を加えることで、望む制御量を得ることである。例えば、水をちょろちょろ出したいと思えば、私達は蛇口をちょっとひねる。逆に、たくさん出したいと思えば思いっきりひねる。そして、出しすぎたと思えばちょっと戻す。このように結果を見ながら、操作量を調整することを、制御工学的にはフィードバック制御という。
私達はフィードバック制御をよく使っている。昨日はちょっと言い過ぎたなぁ、なんて思うと次の日、は優しくしたり。野球でも立ち上がりの悪いピッチャーというのがいるが、回が進むにつれてコントロールが定まってくるのは、フィードバックがうまく働いているせいだろう。
著者は、
フィードバックの本質は、「情報の節約」にある
と述べている。つまり、とりあえずやってみて、結果だけを見ながら修正していけばいいので、前もって、あれやこれやと予測をする労力がいらないのである。逆に結果を全く利用しないで、操作量を決めるやり方をフィードフォワード制御という。ただし、これを行なうには制御対象の性質を完全に理解する必要がある。
情報化社会は即ち監視社会であると論じているデイヴィッド・ライアンの「監視社会」の中では、以下のようなことが述べられている。
企業が追跡・追尾しようとするのは、何よりも、私たちのショッピング行動である。何がどこでいつ、いくらで買われたか。消費に対する私たちの姿勢や、環境保護について私たちが抱く考えは、マーケティング業者の興味を引かない。
かくして、私達の行動の結果は知らないうちにどんどん集められていく。私達の性質を完全に理解するより、その方が楽だから。
制御工学の考え方―産業革命は「制御」からはじまった (ブルーバックス)
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