雪沼とその周辺

雪沼という町で暮らす、ごく普通の人々を描いた作品。七作の短編から構成される。閉鎖寸前のボウリング場の主人、小さな商店街のレコード店の店主、など雪沼の町に腰を落ち着け、地に足をつけ働いてきた人々の、1場面を切り取っている。おおよそ小説において読者の涙を誘うような事件は全て事後的に語られており、それがこの作品の静けさを演出している。
七つの短編は、細い糸で微妙に繋がっている。それは、小さな町だからこその共同体としての機能が繋いだものである。そんな糸が今にも切れてしまいそうな緊張感と悲しみが、作品全体を漂っている。
上質なウイスキーを飲んだ後のような読後感。とても良い作品。

雪沼とその周辺

雪沼とその周辺