ふとふり返ると

日本対米国の試合。米国の監督が、「三塁からの離塁が早く見えた」と言ったそうだが、あれはどう見ても早くない。だからといって、この監督が嘘を言っているとも思わない。多分「見えた」のは本当だろう。人間には自分が見たいものが見えてしまうところがあるように思う。


仕事上、人の働いているところを見に行ったり、それをビデオに撮って後でまたじっくり見たりすることが多いのだが、どのような作業であっても、複数人での作業には何かしら阿吽の呼吸みたいなものが見つけられる。ひょっとすると、これも見えてしまっているのかもしれない。確かにそういうのが見たいなぁとも思う。


「ふとふり返ると」は数年前に亡くなった近藤喜文さんの画文集。近藤さんは私が7回は見たジブリの「耳をすませば」の監督をやった人です。日常の何気なく見過ごしている場面、ひょっとすると私が見たらただ子供が騒いでいるようにしか見えないような場面でも、近藤さんの手にかかると愛おしい場面に見えてくるのです。画文集の中の言葉、

ある時ある場所で、一瞬すれ違い、別れた人々のしぐさのなかに、確かに存在していた個性のきらめき、その生命のあたたかさ

近藤さんはそういうものが見たかったのだと。それは絵を描き始めてからずいぶん後になって気がついたことらしい。


そう考えると、自分の目に見えたことを、なんとなく日記に書き連ねておくのも悪くない。そこから自分が本当に見たいものに気づくことができるかもしれないし。

ふとふり返ると―近藤喜文画文集

ふとふり返ると―近藤喜文画文集


「ふとふり返ると」は誰かにプレゼントしたくなるような素敵な本です。いや、誰かに送りつけてしまおうかしらん。いやいや、お返しなんていりゃァしませんよ。まァ、もしどうしてもっていうんだったらねぇ、やすーい日本酒でいいですよ。エェ、銘柄は一切問いませんよ(笑)。